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【テニプリ】桜の木の下で

第6章 【迷い猫海堂ラン!】


 

* * *


放課後、HRが終わると私は足早に教室を後にする。
廊下を走り、階段を駆け下り、昇降口でつっかけるように靴を履く。


「璃音、相変わらず早いねぇ~」
「あー、美沙ちゃん、ひっさしぶり~!」


声の持ち主は私の小学校からの友達で、私はその場で駆け足しながら彼女に答える。


「これからいつもの?」
「そう、いつもの、ということで急ぐから!」


頑張れ~と後ろからの声援に、おーっと答え走り続ける。
そのままダッシュで校門を抜けて、目指すは近所のスーパーへ。


お目当ての特売品は卵と牛乳。
数量限定だったりすると、学校が終わってからしか買いに来れない私には圧倒的に不利。
なので終業と同時に毎日のようにこうやってダッシュを繰り返す。


無事にそれらをゲットでき、あとはのんびり品定めしながら野菜やお肉をカゴに放り込む。
レジ横の誘惑に負けてお菓子も一つプラスする。
会計が終わるとエコバッグにそれらを入れて次の目的地へ向かう。


「お世話様です~」
「あ、おかえりなさ~い」


ここは弟が通う保育園。
おねーちゃんと駆け寄る弟を全力で抱きしめる。
準備をしている間、弟はずっと私の周りをチョロチョロして、あのねー、今日ねー、と保育園の様子を話す。
先生に今日もとっても良い子でしたよ~と言われ、偉かったね~と頭をなでてあげると、えへへと得意げに笑う。


さようならをして一緒に歌いながら歩く。
一日で一番ゆったりした時間。


河川敷を歩いて家へ向かう途中、私の足が一瞬止まる。
向こうから近づいてくる人影。
一心不乱に走り続ける緑のバンダナの彼。
クラスメイトの海堂薫。


ずっと俯いたまま走る彼は私たちの存在は確認していても、それが私とは認識していない。
すごいスピードのまま私たちの横を駆け抜ける。


その真剣な横顔をちらっと盗み見る一瞬と、通り過ぎた後に強い意志を感じる背中を、そっと眺める数秒が私を奮い立たせる活力源。


「おねーちゃん、あのおにーちゃん、今日も頑張っているね。」
「そうだね・・・」


そして私たちはまた前を向いて歩きだす。
彼も頑張っている、私も頑張ろう、そう自分に言い聞かせながら。

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