第5章 【手塚ドロップ】
「さ、みんなも帰るよ?邪魔者は退散退散」
嵐のような跡部くんが帰ると、不二くんが様子を見ていた周りの生徒達にそう声をかける。
みんなは、えー、とか、色々聞きたいのに~とか、不満の声をあげたけれど、そこは不二くんがうまく誘導して全員生徒会室を後にする。
そして最後に不二くんが、では、ごゆっくり♪とドアを閉めたから、私は手塚くんと2人きりになったことに気が付いて、急に恥ずかしくなった。
恥ずかしくて手塚くんの方を見れずにいると、小宮山、少しいいか?と彼が沈黙を破る。
う、うん、と頷き振り返ると、彼は窓際の私がいつも座っている席のところで外を眺めていたから、私はその隣にそっと並んだ。
「いつもこの席で泣いていたな」
「・・・う・・・ん」
「泣かせてばかりですまなかった」
そういう手塚くんにそっと引き寄せられたから、私は彼の背中に手を回し、黙って顔を横に振る。
「昨日、不二に言われた、小宮山は犠牲になってもいいのかと・・・小宮山はいつか他の誰かが幸せにしてくれる、そう無理に納得しようとしていた」
私を抱きしめる腕に力が入り、だがもう自分に嘘をつく必要はない、と彼が続ける。
「他の誰かではなく、俺自身で小宮山を幸せにしたいと思っている・・・構わないか?」
手塚くんの腕の中から見上げると、彼はとても優しい目で私を見下ろしていて、今までが辛くて苦しいばかりだったから、こんな幸せで本当にいいのかなって、とても満ち足りた気持ちになり、自然と笑顔になった。
やっとお前の本当の笑顔が見られたな、そういう彼に、あのね、ずっと伝えたかった言葉があるの、と私は続ける。
窓からやわらかい風が吹いてきて私たちをやさしく包み込む。
何度もこっそり口にした言葉、言いたくてもずっと言えなかった言葉・・・
「手塚くん、私、あなたが大好きです。」
そして私たちは口づけを交わした。
昨日とは違う、幸なとても甘いキスだった―――