第5章 【手塚ドロップ】
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生徒総会は滞りなく終了し、放課後に生徒会室で反省会を執行する。
小宮山は内心辛いだろうに気丈に振舞っていて、その姿が余計にいじらしかった。
そのいじらしさが尚更、市川の見せる俺たちを伺うような視線に憤りを感じさせる。
そんなとき、市川がいつものように腕を絡ませてきたので、思わず、離せ、と手を振り払う。
以前は割り切ることが出来た行為が今は受け入れられない。
市川に背を向けると、俺は窓際に移動して外を眺めた。
一見頼りないその雰囲気とは裏腹に、実はしっかり芯が通っていて、何事も努力を惜しまず全力で取り組む彼女。
たまにおっちょこちょいなところもあるが、そんな一面も愛らしい。
そして触れたことで初めて知った彼女の温もり。
力を入れれば折れてしまいそうな細い身体。
少し癖のあるやわらかい髪。
程よい弾力の魅力的な唇。
募る想いは俺から冷静さを奪う。
「あんたのせいよ!」
市川がそう叫んだ途端、机が倒れる大きな音がし慌てて振り返る。
「あんたさえいなければ、すべてうまくいったのに!!」
気が付くと逆上した市川が小宮山に掴みかかっていた。
何をしている!やめるんだ!そう声を荒げ、小宮山を抱えるように庇う。
男子生徒らが市川を引き離し、女生徒たちが悲鳴を上げる。
俺の腕の中で震える彼女に、もう大丈夫だ、と小さく囁く。
そう、いいのね?と市川は俺を嘲笑うように見て、俺は言葉に詰まる。
小宮山が、手塚くんダメだよ、とおびえる声で訴え、状況を飲み込めない周りの生徒達が一斉にざわめく。
「2度目はないって言ったでしょ?せっかくチャンスをあげたのに・・・。約束通り手塚くんのお父様には色々請求させてもらうわ。」
唇を噛み拳を握りしめる。
抑えきれない怒りで市川を睨み付ける。
市川は一瞬ひるんだ後、そんな目をしても無駄よ?と言った。
「契約書があるんだから!これで手塚家は路頭に迷うのよ!!もうテニスどころじゃないわ!!」
一気にまくし立てて笑う市川に、その場の全員が息を飲んだ。
その次の瞬間、
「随分楽しそうだな、アーン?」
突然現れた第三者の声に全員が一斉にそちらを振り向く。
俺は聞きなれた声に、顔を見ずともそれが誰か理解した。