第5章 【手塚ドロップ】
しばらくすると2人の打ち合いが終わり、フェンスを挟んで隣に立っていた不二くんが、手塚!と彼を呼んでくれた。
その声に振り返った彼と目があった瞬間、彼の眉間が歪み、ふー、っと軽くため息をつかれた気がして、やっぱり迷惑だったかな、と心臓のあたりが痛んだ。
「どうした?何かあったか?」
「あの・・・教頭先生に出す原本、多分男子テニス部の、手塚くんのバッグに入っちゃってると思う・・・」
私がそう答えると、彼はちょっと考えて、その後、ハッとした顔をし、確かに入れた、わざわざすまなかったと謝った。
「すまないが部室にある、一緒に来てもらえるか?」
そういう彼に私はコクンとうなずくと、彼は大石くんに、生徒会の用事だ、後はよろしく頼む、と声をかけ、2人でコートを後にした。
以前なら一緒に歩けるだけで幸せだったのに、今は色々な感情がまじりあい、複雑な思いで彼の背中を見ながらついていった。
部室に着くと彼に促され、窓際のベンチに腰を下ろす。
彼がロッカーから自分のバッグを取り出し原本を探し始める。
「ところで、提出は市川の仕事だったはずだが?」
原本を探す彼に問われ、私は言葉に詰まる。
何も答えられず黙ってると、はーっ彼が小さくため息をついた。
「また押し付けられたのか?」
「・・・また・・・って・・・?」
「仕事の内容を見ればわかる、市川が作成した書類のほとんどは小宮山が作ったものだ」
全部見透かされていたことに驚き戸惑う。
どうしてよいかわからず、私は彼から目をそらして俯くと、すまない、と彼はバッグから取り出した原本を私に差し出した。
彼女の行いを彼に謝罪されたのが嫌で、手塚くんが謝らないでよ、と私はぎこちない笑顔で原本を受け取る。
そうだな、すまない、と彼がもう一度謝るので、手塚くん、最近謝ってばっかり、と言うと、お前は泣いているか作り笑いかのどちらかだな、と彼は答えた。