第5章 【手塚ドロップ】
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しばらく1人、生徒会室に残っていたけれど、いつまでもこうしていても仕方がないし、とにかく教頭先生のところに行かなくちゃ、と念のため封筒の中身を確認する。
・・・アレ?・・・足りない・・・男子テニス部の資料がない・・・?
さっきはちゃんとあったのに何で?と記憶の糸を辿る。
あ、そういえばさっき手塚くん、1枚プリント持って眺めてた・・・その後、机の上に置いて・・・市川さんに声掛けられて・・・うん、帰るとき、自分の荷物と一緒にバッグに入れちゃったんだ・・・
手塚くんにしては珍しいミス・・・でもどうしよう・・・今日中に提出しないといけないのに・・・。
もしかしたら帰るまでに気が付いて出してくれるかもしれないけれど、気が付かなかったら困るし・・・メールしておく?でもメールにも気が付かなかったら・・・?
色々悩んだ結果、やっぱり彼のところへ確認しに行こうと決めた。
大丈夫、これは生徒会の仕事だから・・・仕事は割り切ってやらなきゃ・・・ね?
そう自分に言い聞かせ、テニスコートへとむかった。
☆ ☆ ☆
テニスコートに着くと、手塚くんがちょうど噂の1年生、越前くんと打ち合いをしているようだった。
「やぁ、小宮山さん、君がテニスコートにくるなんて珍しいね?」
どうしようか戸惑っていたところ、顔見知りの不二くんがフェンス越しに声をかけてくれたので少しほっとする。
「あ、不二くん、練習の邪魔してごめんね?手塚くん、今日中に提出の資料を持って行っちゃったみたいで・・・」
「手塚が?・・・それは珍しいな」
彼のミスに不二くんも驚いていたけど、でもどこか心当たりもあるようなそんな顔をしていた。
不二くんのあの穏やかな目は、人の内面も全部みえるんじゃないかな?なんて思った。
不二くんにすぐに手塚くんを呼ぶか聞かれたけど、邪魔したくないからひと段落ついてからでいいよ、と答えた。
テニスをする手塚くんはいつも通り冷静沈着で、でも一見クールなその表情とは対照的に勝利に対して貪欲で、今も越前くんと練習なのに全く手を抜かず打ち合っている。
でも私は今日の彼にどこか違和感を感じていた。
以前は感じられた彼の目の奥からあふれる情熱を、今日は感じることが出来ず、どこか苦しそうに見えた。