第5章 【手塚ドロップ】
「納得いかないって顔をしているわね?そうね、最初手塚くんには断られたわ。自分の実力で世界を目指してみせるってね。・・・でもね、こう言ったら素直になってくれたわよ?
もし条件を飲まなかったら、今までにかかった資金、治療費、今後サポートするうえで見込めるであろう金額まで全部一括で請求させてもらうからね、って。
そんなことされたら手塚家は・・・どうなるかわかるでしょ?」
・・・そんな・・・それじゃ手塚くんは自分を犠牲にして・・・?
手塚くんを見ると、怒りからか握られた拳が小さく震えていた・・・。
「とにかく、こちらに契約書がある限りそういうことなのよ?だから小宮山さん、あなたの出る幕なんてないの、わかった?手塚くん、今回のことはパパには内緒にしてあげる。でも・・・次はないわよ?」
さ、行きましょ、そう言って市川さんは歩きだした。
そして手塚くんは伏し目がちのまま市川さんの後に続いた。
小宮山、すまない・・・そう小さく呟いて―――
一人残された私はまた泣くしかなかった。
今度は自分のためではなく、手塚くんの気持ちを思って泣いた―――