第5章 【手塚ドロップ】
「・・・なにやってるの?」
急にかけられた第三者の声で我に返り、私たちはびっくりして振り返った。
そこには市川さんが立っていて、私は慌てて手塚くんから離れた。
「なにやってるのって聞いてるでしょ!」
当然だけど彼女が一段とひどく声を荒げた。
私は何も言えずただ俯くしかできなかった。
「黙ってないで何とか言いなさいよ!」
そう叫びながら彼女が詰め寄ってきたと同時に頬に衝撃が走り、私はその勢いで床に倒れ込んだ。
小宮山!と手塚くんが駆け寄りかけたけれど、手塚くん!との市川さんの声にその動きがとまる。
ごめんなさい、私はそう小さく謝るしかできなかった。
「・・・そうね、いい機会だから教えてあげる。」
え?と顔を上げると市川さんはすごく意地悪な笑みを浮かべていて、俯く手塚くんはどこか辛そうな顔に見えた。
「手塚くんは私のものなのよ、一生ね。」
・・・一生・・・?
「我が家・・・市川グループは手塚くんのスポンサーなの。」
・・・スポンサー・・・?
「小さなころからずっと手塚くんを金銭的にサポートしてきた。怪我をしたときの治療費もそう、これからのテニス留学の資金援助も。そしてゆくゆくは市川グループの名前を背負ってプロになってもらうわ。」
スポンサー・・・それで手塚くんは市川さんと付き合っているというの?
一生ってことはこのまま市川さんと結婚するというの?
そこに手塚くんの意思はないの?
あの手塚くんがそんな権力に屈するなんて・・・絶対おかしい・・・