第5章 【手塚ドロップ】
手塚くんの差し出す本に震える手を伸ばす。
そして彼が手を離すまでのほんの一瞬、本を挟んで繋がった2人の時間が停まったような気がした。
「手塚くん・・・」
「・・・なんだ?」
「・・・市川さんと・・・付き合ってるの・・・?」
私は俯いたまま、震える声で小さくそっと問いかけた。
否定してほしい・・・ただの噂だって言ってほしい・・・
さっきの手塚くんの笑顔とこの本に希望を持ちたかった・・・
それがたとえかすかな望みでも・・・
「・・・あぁ。」
かすかな光がすべて闇に飲み込まれた
そんな瞬間だった―――
彼の手が本から離れ、その場を後にする。
一人になった私は本棚の陰にしゃがみ込み、周りに気付かれないように声を押し殺して泣いた。