第5章 【手塚ドロップ】
☆ ☆ ☆
お昼休み、私はお弁当を食べた後、友人たちと別れて一人図書室へと来ていた。
レポート作成のため、参考になる本を探そうと思ったためだ。
「んー・・・これと・・・他は・・・あ、あった、あった。」
お目当て本を見つけ、目を通しながら歩き出す。
数歩歩いたところで誰かにぶつかり、すみません、と顔を上げると私の心臓がドクンと高鳴る。
そこには本を片手に手塚くんが立っていたからだ。
「小宮山か・・・本を借りに来たのか?」
「あ・・・うん、レポートの参考に・・・手塚くんは・・・洋書?」
思いがけず彼に会えたものだから、私の心臓はますます速く脈を打ち、私はそれを悟られないようにできるだけ平静を装って答えた。
「あぁ、以前、この作者の小説を読んで面白かったのでな・・・」
「んー、マクベイン・・・あぁ、私、以前、童話かと思って借りたらミステリーで・・・」
読むのに凄く苦労したの、そう言った瞬間、彼の口元がフッとゆるんだ気がした。
あ・・・今、手塚くん、笑った?
もしかして私のドジ話がおかしくて笑われた?
でもそうだとしても嬉しい。
初めて見た手塚くんの笑顔につられ、私も思わず笑顔になる。
「小宮山も洋書を読むのか?」
「時々、勉強になるし。でも簡単なのだけ・・・それでも辞書を引きながらだけど。」
勉強になるなんて嘘。
本当は彼が洋書を読むのが好きだと知って、彼が好きなものを知りたくて・・・必死に彼に近づきたくて・・・ただ無我夢中だった。
「それなら、この辺はどうだ?」
そう言って彼は棚から一冊の洋書を取り出し私に差し出した。
「正真正銘の童話集だ。」
「あ・・・ありがとう・・・」
手塚くんが私のために本を選んでくれた。
そう思うとただ嬉しくて、くすぐったくて、でも市川さんのことを思い出すと苦しくて・・・
受け取る手が小さく震えた―――