第5章 【手塚ドロップ】
ノートをまとめる手を止めてふと窓の外を見ると、ちょうど手塚くんと市川さんが帰るのが見えた。
市川さんが手塚くんに寄り添って腕を組んで歩いていて、残っていた生徒達が遠巻きにそんな2人を見ている。
容姿端麗、成績優秀、生徒会長と副会長、手塚くんは将来はプロ確実視されているテニスプレーヤーで市川さんは資産家のお嬢様だと聞く。
・・・そんな2人が付き合うのも自然なことかもしれない。
彼女に関して色々思うところはあるけれど、もし本当に付き合っているのなら、きっと手塚くんにとって彼女は魅力的な女性なのだろう。
だったら私は手塚くんの幸せのために2人を祝福するべきなのかもしれない。
でも本当は私だってあなたの隣にいたい。
けど現実はこうやって遠くから眺めるしかできない・・・。
手塚くん、私、あなたが大好きです―――。
こんな遠くでつぶやいたって聞こえるはずもない言葉。
聞こえるはずもないからこそ声に出せる言葉・・・。
好きです、大好きです、彼女の隣を歩く手塚くんの背中に向かってそう何度も呟いた。
すると彼が振り返り、私のいる生徒会室の窓を見た気がして、私は慌てて机に頭を伏せて隠れた。
下を向いた途端、目頭から抑えていた思いが溢れ出す。
ひとしずく・・・更にもうひとしずく、ノートに染みが出来た。
ねぇ、手塚くん・・・胸が苦しいよ―――