第5章 【手塚ドロップ】
「そ~う?じゃあ、手塚君、帰りましょ。」
「・・・市川、おまえの担当の資料は終わっているのか?」
「え!?・・・えっと、もちろん終わってるよ~♪」
「・・・そうか。ならいいが・・・。小宮山は一人で大丈夫か?」
「うん、書き写すだけだからすぐ終わるし・・・。」
「・・・そうか。無理はするなよ?」
「じゃ、小宮山さん、頑張ってね~♪」
私は胸のざわめきを作り笑顔でごまかし2人を見送った。
生徒会室に私一人になると、一気にあたりが静まり返る。
一人で大丈夫か?無理はするなよ?
生徒会メンバーとして気遣ってくれた言葉だとしても、彼が私を気にかけてくれたことが嬉しい。
うん、落ち込んでいても仕方がないもんね。
ザワザワする胸を押さえると、よしっ!と気合を入れて仕事を再開した。
再開したその次の瞬間、
ガラッ!
突然ドアが開いたのでビックリして見ると、市川さんが1人で生徒会室に戻ってきた。
・・・嫌な予感がする・・・。
「小宮山さん~、お願いがあるの~。」
そう言って彼女はバッグからプリントを数枚取り出すと私の目の前に置いた。
それは先程手塚くんが言っていた、彼女担当の資料・・・。
「これ、まとめておいてくれない?」
「え?で、でも・・・さっきは終わったって・・・。」
「だって、終わったって言わなきゃ手塚くんと帰れないじゃない。だから、これやっといてよ。今日中に。」
――予感的中。
彼女に仕事を押し付けられたのは、これが初めてじゃない。
「・・・でも・・・」
「なによ!どうせ暇なんでしょ?」
相変わらずの言い方・・・。
さっきまでの・・・手塚くんの前での態度とは大違い・・・。
「・・・・・わかった・・・」
「そ?ありがとう。よろしくね♪」
彼女に何を言っても無駄・・・。
いつも最後は逆切れして、結局押し付けられる。
諦め半分で彼女からプリントを受け取ると、彼女は笑顔で手を振り足早に出ていった。
そして私は大きなため息をついた。