第3章 【桃城ペダル】
中庭のベンチに座り空を仰ぐ。
大きな桜の枝越しに、夏の青空がキラキラ輝いている。
そういや前、ここで桃城くんとお昼食べたっけ。
桃城くん、沢山パン頬張っておいしそうに食べてたな。
あの時はこの木漏れ日のように全部キラキラ輝いて見えたっけ。
いつも笑顔で自転車に乗って待ていてくれて嬉しかったな。
後ろ手のバイバイ、くすぐったかったな。
桃城くんの大きな背中、大好きだったな。
私、頑張ったよね?ちゃんと演技出来てたよね?
そう小さくそっと呟くと、かすかな風が頬をかすめ、頭上の木の葉を揺らした。
彼が出来たの、そう言った時の彼の切なそうな顔を思い出しまた心が痛む。
さっきはよく我慢したぞ、偉かったぞ、もう泣いてもいいぞ・・・
うー・・・っく・・・ひぃっく・・・やだ・・・嫌だよぅ・・・
私はあふれる涙を両手で覆うと今度は思いっきり泣いた。
「どこで彼氏が待っているって~?」
聞こえないはずの声が聞こえ、ガバッ顔を上げる。
「嘘ついちゃ~いけねーな、いけねーよ?」
嘘・・・なんで・・・?
言いたい言葉がなかなか出てこない。
「わかってんだよ、お前が嘘ついてることくらい。」
「嘘・・・じゃ、ない・・・」
「嘘だ、そんでもってお前は俺が好きなんだよ!」
「ち、ちが・・・」
違うって言おうと思ったけど言えなかった。
一度素直になった心はもう嘘をつきたくないと言っていたから。
「素直になれよ?」
そう言って彼は私の頬に触れた。
「少し赤くなってるな・・・痛かったか?」
あ・・・昼間、あの子たちに叩かれたところ・・・
ううん、と首をふる。
桃城くん、多分、なんでも御見通しなんだ。
「なんで嘘ついた?あいつらに何か言われたせいか?」
「違う、違うの・・・桃城くん、私を送っているせいで夜まで残って練習してるって・・・」
そういうと、あっちゃー、ばれちまったのか~、とちょっといつもの調子に戻ったから、私も自然と笑顔になった。
「負担に、なりたくなかったの。」
「だからあんな嘘ついたのかよ?」
「ん・・・」
桃城くんは、はぁ~とその場にかがみこんでうなだれた。
「お前、それすげーズレてるだろ~?」
「え!?そ、そう?」
そんなにズレてたかな?
そう言って私は彼の隣にしゃがむとそっと顔を覗き込んだ。