第3章 【桃城ペダル】
その日の帰り、いつものように彼は私を待っていて、私はいつものように彼のもとに向かった。
いつもはここで軽く会話して、私が自転車にのり彼がペダルを漕ぐ。
それがいつもの日常。
「小宮山、どうしたんだよ?」
なかなか自転車に乗ろうとしない私を不思議に思って彼がそう問う。
桃城くん、今までありがとう。
ごめんね?無理させて。
私は意を決して大きく息を吸いこんだ。
「桃城くん、もう送り迎えしてくれなくて大丈夫だよ。」
私がそういうと、彼はすごくびっくりした顔をしている。
「な、何でだよ?足だってまだちゃんと治ってねーだろ?」
「うん・・・ま・・・そうなんだけど、ね・・・」
そうだよね、簡単に、はい、そーですか、って桃城くんが納得するはずないよね。
「なんだよ、だからいつも気にすんなって言ってんだろ?」
「・・・う・・・ん・・・」
うん、私だって本当は嫌だよ、こんなこと言いたくないよ?
でも桃城くんの負担にはなりたくない・・・。
ふーーー・・・もう一度大きく息を吸うと、精一杯の作り笑で桃城くんの顔をみる。
「違うの、あのね、私・・・彼ができたの!」
え?、と桃城くんの顔が険しくなり、私の心はズキンと痛んだ。
「あのね、今日、好きな人に告白されてね?おかげさまで付き合うことになったの!」
「・・・・・・」
「それでね、桃城くんと一緒に帰っているところ見られたらアレでしょ?誤解されちゃうでしょ?」
「あ・・・あぁ・・・。」
「だからね、もう一緒に帰ってもらわなくて・・・大丈夫、なの・・・」
彼があまりにも悲しい顔をしているから、最後の方は彼の顔をまっすぐ見れなくて・・・彼にそんな顔をさせた事実がつらくて・・・私はくるっと彼に背を向けた。
「・・・それにね・・・今日から彼が送り迎えしてくれるから・・・足の方も心配ないの・・・」
駄目、まだ泣くな、もう少し我慢しろ、桃城くん、結構観察力あるからバレちゃう。
きっと眉間に力を入れると私はもう一度精一杯の作り笑顔で彼を見て、
「今までどうもありがとう・・・彼が待っているから・・・もう行く・・・ね?」
そう告げると私は桃城くんのところをあとにした。