第3章 【桃城ペダル】
次の日、私は体育館の裏にいた。
「ちょっと聞いてんの?」
怖い顔をした数人の女生徒たちに囲まれている。
もちろん、彼女たちは友達ではない・・・と思う。
これはいわゆる、噂の、呼び出しってやつですか?
「桃ちゃんが毎日送り迎えしてくれるからって、いい気になってんじゃないよ!」
別にいい気になってなんかいないし、そう思ったけれど言い返したところで火に油、こういうときは黙っているに限る。
「桃ちゃんは責任感が強いから、義務でしているだけなんだからね!」
うん、知ってる。
「足が治ったらあんたなんか相手にされないんだから!」
うん、わかってる。
それにしてもテニス部レギュラー陣が女子に人気があるのは知っていたけれど、それは手塚先輩や不二先輩や菊丸先輩や越前くんで、まさか桃城くんにもこんな熱狂的なファンがいるとは思わなかった。
あ、桃城くんに失礼なこと思った、ごめん、そう心の中で謝る。
私、こんな状況でもなんて冷静なんだろう、そう思ったらおかしくて思わずくすっと顔がゆるんだ。
あ、失敗。
「何がおかしいのよ!」
叫び声と同時に頬に衝撃が走る。
案の定、逆上した女の子たちが真っ赤な顔をして怒っている。
あー、面倒。
この人達、こんなことして桃城くんに知られたら嫌じゃないのかな?
なんか腹立ってきた、なんて思ったら相手の一人が口を開いた。
「だいたいあんたのせいで桃ちゃん、毎日残って夜まで練習しているんだからね!」
え・・・?自分の顔が険しくなったのがわかった。
「その顔、知らなかったんでしょ?いい気なもんね!」
「あんたの送迎のために抜けた分、その何倍も練習するって約束で手塚先輩に許可もらったんだから!」
「朝だって誰よりも早く朝練に来て、慌ててあんたを迎えに行って・・・桃ちゃん倒れたらあんたのせいだからね!」
知らなかった・・・
だって桃城くん・・・そんなこと一言も言わなくて・・・
そんな負担になっていたなんて・・・
「ちょっと聞いてんの!?」
「うん、聞いてる・・・教えてくれてありがとう・・・」
絞めている相手にありがとうなんて言われて、今度は彼女たちが怪訝な顔をしていた。
「安心して?もうお終いにするから・・・」
私は呆気とられている彼女たちを残してその場から立ち去った。