第3章 【桃城ペダル】
彼と一緒に登下校をするようになって10日になる。
足はもうだいぶ良くなっていて、歩くと少し響く程度。
きっともう数日で日常生活に支障がないくらい回復するだろう。
つまりそれは桃城くんと一緒の登下校の終わりが近いことを表している。
彼は私に怪我をさせた責任を感じて、足がよくなるまで送り迎えをしてくれるているだけなのだから。
昇降口を出るといつものように桃城くんが待っていてくれた。
最初の頃は申し訳ないし恥ずかしいしで、すごくぎこちなかったけれど、10日も立つとすっかり慣れたもので、今日もよろしくお願いしま~す、なんて言って後ろに座ると、おーと桃城くんは自転車を漕ぎ出す。
もちろん、最初の頃のように申し訳ない気持ちはあるけれど、でも今はそれよりこうして一緒に自転車に乗れることが嬉しくて、自宅まで10分の距離が、もっともっと長ければいいのになんて思っちゃって、でもあっという間に着いちゃって、さよならするときには寂しくて・・・。
でもその10分間ですら、もうあと数日を残すのみ。
そう思ったらどうしようもないくらい寂しくて、ただ悲しくて、自然と目から涙がこぼれてしまい、それを悟られないようにこっそり手で拭った。
一度サドルから離した片手をまたもとに戻そうか迷ったけれど、気が付いたら私はしっかり桃城くんの腰に両手を回し、初めてその広い背中に頬をうずめていた。
一瞬、桃城くんの身体がビクンと跳ねた気がして、小宮山!?ってびっくりして私を呼んだけれど、私はただ黙って彼の背中にしがみついていた。
我ながら大胆なことをしているな、なんてどこか冷静に思ったけれど、もうすぐこの時間も終わり、そう思ったらそうせずにはにいられなかった。
桃城くんの背中は毎日間近で見ていたんだから、広いことはわかっていたけれど、こうやってくっつくと本当にもっと大きくて、さすがテニスで鍛えているだけあって筋肉質で・・・私の心臓はうるさいくらいドキドキしてた。
身体が密着しているから、桃城くんに私の心臓の音が伝わってしまうかもしれないと思った。
でもそれでも良かった。
むしろ桃城くんに伝わればいいと思った。
心臓の音も、彼を思う私の気持ちも、この寂しさも、
全部全部伝わってしまえばいいのに―――