第3章 【桃城ペダル】
「ねぇ桃城くん、テニス部、大丈夫なの?」
彼がテニス部のレギュラージャージを着ているのに気が付いて慌てて質問する。
テニス部部長の手塚先輩ってすごく厳しいって聞いたことがある。
遅刻なんてしたら、グラウンド沢山走らされるらしい。
こんなことのせいで桃城くんが走らされたら申し訳ない。
「問題ねーよ、部長にはちゃんと報告してあっから」
「本当に大丈夫?」
「しつこいって、副部長の大石先輩にも、俺のせいで怪我させたって言ったらしっかり送ってこいって言われたしよ」
ならいいんだけど・・・でもやっぱり申し訳ないな。
でも彼は自分が決めたことを簡単に曲げるような人じゃない気がして、素直にその行為に甘えることにする。
「でもやっぱり悪いな・・・私、重いでしょ?」
「いいってことよ~、これも結構いいトレーニングになるってもんだぜ?」
「・・・重いってところは否定しないのね?」
そう言ってちょっと拗ねた振りをしてみると、あ?な、いや!うん、いや、全然・・・わ、悪い・・・そうしどろもどろに慌てる彼が、なんか可愛くておかしかった。
「本当にありがとうね」
自宅に到着後、自転車を降りてお礼を言うと、彼は時計を確認しながら、だいたい10分ちょいか、とつぶやく。
「明日の朝は7時50分でいいよな」
「え!?今日送ってもらっただけで十分なのに明日の朝までって・・・」
「何言ってんだよ、とーぜん、足が治るまで毎日送るぜ?」
「えぇ!?」
桃城くんはそう驚く私の頭にぽんと手をのせると、怪我人は黙って甘えとけばいいんだよ、そうやさしく笑い、くるっと方向転換しペダルをこぎだした。
「じゃー、明日、7時50分な~」
そう前だけ見て大きく片手をあげた彼の背中を見送りながら、自分の顔がかぁーっと熱くなっているのに気が付いた。
「じゃ、じゃあまた明日ね!」
慌てて返した声が少し裏返って、すごく恥ずかしかった。
彼が見えなくなても、しばらくその場から動けなかった。