第3章 【桃城ペダル】
「軽い捻挫ね」
ここは学校の保健室。
彼・・・桃城武くんの言うところのどんくさい私は、尻餅をついたときに左足を捻挫してしまったらしい。
マジでわりぃ、そうさっきとは打って変わって真剣に謝ってくれている彼に、ううん、私が自分で転んだんだよ、と気にしないように言う。
そんな彼の頭を、ちったー落ち着け!と保険の先生が利用者名簿で軽くた叩き、私にはしばらく安静にするように、と念を押した。
ありがとうございましたと保健室を後にすると、彼がお前名前は?と聞いてくる。
「小宮山璃音、2年3組だよ。」
「3組か~テニス部、誰かいたっけ?」
「どうだったかなぁ・・・桃城くんは8組だっけ?」
なんてたわいもない話をしながらゆっくり歩く。
歩くたびに足がズキズキ痛んで、本当にゆっくりしか歩けなかったけど、彼はちゃんと私のペースで歩いてくれた。
教室につくと、保健室に行く前からずっと持っていてくれたバッグを私に渡し、本当に悪かったな、とそう言って彼は8組の方へ慌てて走っていった。
急いでいたのに、ゆっくり歩いてくれたんだな、そう思うと心臓のところがちょっとくすぐったい気持ちになった。
うぉぉーーーと走って行って、廊下の隅で先生に捕まり、お説教をされていて、クスクス笑ってしまった。
放課後になり、さてどうしようかな?と悩む。
痛いのは足、当然歩くのが一苦労、自宅までは徒歩30分。
この足だと3倍は時間がかかってしまうだろう。
しかも足にかかる負担は半端ない。
安静にって言われても・・・歩くしかないか、そう覚悟を決めてゆっくり歩き出したその時、後ろからチリンチリンと自転車のベルが聞こえてきた。
慌てて振り向くと、そこには桃城くんが自転車にまたがって、よぉ、と手をあげていた。
「乗れよ!家まで送ってやるぜ。」
「え!?でも・・・悪いよ。」
「いーんだよ、俺のせいで怪我させちまったんだから。」
でも悪いよ、いいんだよ、の押し問答の後、結局私が折れて送ってもらうことになった。
というか、下校する生徒たちの視線が痛くていたたまれず、早くその場から離れたい気持ちが大きかったってこともある。
彼の自転車の後ろに横向きで座り、控えめに彼が座っているサドルをつかむと、落っこちんなよ?そう言って桃城くんは勢いよく自転車をこぎだした。