第10章 【菊丸ステップ】
2人の間をやわらかい春の風が吹き抜ける。
遠くで卒業を祝う生徒達の声が聞こえる。
そっと手を伸ばし、彼女の指に触れてみる。
彼女はちょっとためらった後、そっと俺の手をとった。
離れないようにしっかり指を絡めると、彼女はそれに答えて、握り返してくれる。
そしてどちらからともなくお互いに目が合って、なんか照れくさくて笑った。
そう言えば、以前、2回ほど繋いだことがあるこの手。
ピンチヒッターで出場した運動会の借り物競争と、修学旅行のまくら投げで彼女を起こしてあげるとき。
今は、あの時とは違う。
これからは、いつでもこの手を繋ぐことが出来る。
一年前、ここで始まった俺の恋。
あの時感じた予感は的中し、中学最後の一年間はすげー楽しく充実したものだった。
そして今、この桜の木の下で両想いになることができた。
やっぱり・・・あの伝説は本当なのかな?
桜の精、もし見ていたら・・・ずっと見守っていてくれて、ありがとね。
そして俺たちは中庭を後にする。
繋いだ手をしっかりと離さずに。
中庭を吹き抜ける風が俺達の背中にふれた瞬間、かすかな笑い声を感じた気がしてふと振り返る。
「英二くん・・・?」
「んー、何でもない、行こう!」
そして俺たちは笑った。