第10章 【菊丸ステップ】
◆卒業◆
木枯らしが温かい春風に変わり、中庭の桜のつぼみもだいぶ膨らみ始めた今日、俺達は、この青春学園中等部を卒業した。
満開の桜の木の下で、初めて彼女に逢ったあのときから、もうすぐ1年がたとうとしている。
最初は名前も知らない女の子。
この木の下で一目惚れした。
実は同じクラスで1年間、同じ時を過ごした。
1年間、色々なことがあった。
テニスに、友情に、ちょっぴり勉強に・・・夢中で突っ走ってきた。
そして、いつもそばにはキミの笑顔があった。
友達として・・・だったけど、ずっとその笑顔を見てきたから頑張ってこれた。
「ねぇ・・・英二くん。覚えてる?」
「ん?」
「1年前・・・始業式の日・・・」
「うん。」
「英二くん、ここで、綺麗だって言ったでしょ?」
あぁ、言った、忘れるわけ無い。
俺、桜の中のキミが凄く綺麗で、思わずそう言っちゃったんだ。
「あれ、最初、私の事言われたかと勘違いしちゃって・・・」
内心、凄く恥ずかしかったの・・・
そう言って恥ずかしそうに笑う彼女。
その笑顔を見ていたら、自然と言葉が出てきた。
「それ、勘違いじゃないよ。」
「え?」
「あれ、キミの事、言ったんだ・・・」
「・・・」
「俺、あの時、璃音ちゃんに一目惚れしたんだ。」
「そう・・・なんだ・・・」
それ以上、俺は何も言わなかったし、彼女も何も言わなかった。
でも、それで十分だと思った。
彼女の桜色に染まる頬が、恥ずかしそうに俯く瞳が、そっと微笑む唇が、彼女のかもし出す雰囲気のそのすべてが・・・2人の想いは同じだと、そう俺に教えてくれたから。