第10章 【菊丸ステップ】
◆バレンタイン◆
毎日のように吹き荒れる木枯らしが、文字通り、中庭の木々を凍えさせる季節。
「さみー・・・」
下校中、突然吹いた木枯らしに、思わず背中を丸めて立ち止まる。
まだまだ受験シーズン真っただ中のこの時期だけど、大抵の奴はこのまま高等部に進級で、先日入試は終了済み。
やっと解放された受験後の一大イベントに、みんな大いに盛り上がっていた。
今日は1日、みんな幸せそうだった。
ただ1人、俺を除いては・・・
「はぁ・・・璃音ちゃんからチョコ、もらえなかった・・・」
「クスッ、その代わり、他の子から沢山もらえたじゃない。」
そりゃもらったけどさ・・・嬉しかったけどさ・・・やっぱ、好きな人からもらえなきゃ意味無いじゃん?
たとえ、世界中の女の子からチョコをもらっても、璃音ちゃんのたった1つのチョコにはかなわない・・・
って、だいたい、不二のほうが俺よりもらってたじゃんか。
ちぇーっ!彼女に言いつけてやる!・・・って同じクラスだから知ってるか。
「ちょっといい雰囲気だと思ってたのは、やっぱ俺の勘違いだったのかにゃ~・・・?」
「さぁ?直接本人に確かめてみれば?」
「・・・それが出来たらとっくにしているっての!」
俺ってこんなにヘタレだったっけ?
なんか璃音ちゃんには他の子みたいに軽いノリでいけないんだよね。
はぁ・・・また1つ、大きなため息をついた。
「・・・英二。」
「・・・?」
不二が立ち止まって俺の名を呼ぶ。
不思議に思い不二の視線の先を見ると、璃音ちゃんがこっちを見て立っていた。
本物?それとも、俺の願望が見せた幻・・・?
不二に背中をぽんと押されて我に返る。
「・・・ほら、英二。」
「あ、あぁ・・・」
俺は璃音ちゃんに駆け寄った。
駆け寄ったつもりなんだけど・・・足がもつれてうまく走れない。
彼女のところにたどり着くのに凄く時間がかかった気がした。