第10章 【菊丸ステップ】
「あのね・・・英二くん?」
「なになに?」
「本当はね、手編みにしたかったの・・・」
手編み、なんて言われ、心臓がどきっとした。
それって、どういう意味?って聞きたいけど、聞けなくて、う、うん?とただ上ずった相槌をうった。
「でもね・・・受験勉強しないとで時間がなくて・・・」
「あ、そうだよにゃ、璃音ちゃん勉強頑張ってるもんね~。」
「でね・・・だからね?」
そういって彼女は俺の方をみると、
「来年・・・、来年は手編みをプレゼントするから!」
え?そ、それって・・・来年のクリスマスも一緒に過ごそうってこと?
すんげー嬉しい、でもこれって本当に現実?
実はやっぱり最初から全部夢だったり・・・しないよな・・・?
イルミネーションの光が彼女の瞳に反射して、いつも以上にキラキラ光って見えて、俺はあの春の日のように彼女から視線を離せなくなった。
「だからね?・・・・・・受験勉強、がんばろ?」
「・・・・・・へ?」
受験勉強・・・?
彼女の言葉に俺は一気に現実に引き戻された。
「高校も英二くんと一緒に過ごしたいから・・・ね?がんばろ?」
・・・な、なんて可愛いこと言ってくれるんだよ~~~!!
大好きな彼女に、そんなこと言われたら、俺、やるしかないじゃん?
これで頑張らなきゃ男じゃないじゃん?
「うっし!やるぞ~!!!」
俺は両手のこぶしを空に突き上げる。
「俺、頑張る!明日から勉強頑張るから、約束!」
そういって小指を差し出すと、彼女も、うん、約束!と小指をだし指切りをする。
つないだ小指があったかくてくすぐったくて、離してしまうのがもったいなくて、でも離さないわけにはいかなくて・・・名残惜しい気持ちを押し殺しそっと指を離す。
「でも英二くん?」
「なに?なに?どったの?」
「頑張るのは・・・今日、からだよ?」
指切りをした小指を立てたまま、そう微笑む彼女の一言で、俺はまた一気に現実に戻された・・・
でも俺、本気で頑張っちゃうもんね!大好きな彼女との約束を守る為!
大雪になると騒ぐ家族を無視すると、受験までラストスパート、俺は必死に机にかじりついた。