第9章 【大石の大罪】
「・・・失礼しました~。」
ちぇ、あの先生め、か弱い乙女にあんな大量の資料運ばせやがって、おかげで帰るのが遅くなっちゃったじゃん。
秀一郎に見つからずに帰れるといいんだけれど・・・
そう思いながら教室のドアを開けて私は動きがとまる。
私の席に秀一郎が笑顔で立っているではないか・・・
久々に見る秀一郎の顔に、心臓が跳ね上がる。
身体が小さく震え、一気に喉が渇く。
その一方で手は不思議なくらい汗ばんでくる。
「なんか久しぶりだな、璃音。」
うん、本当に久しぶり・・・ってそう言う問題じゃない!!
私はそのままくるりと向きを変えると、一目散に逃げ出した。
「あぁ!待つんだ、待ってくれ!璃音!!」
「待てと言われて待つお人よしが何処にいるっての!!」
廊下を走り抜け、階段を3段ぬかしで駆け降りる。
それでも男子、しかも全国制覇した秀一郎にガチで勝てるはずもなく、秀一郎の気配がすぐ後ろまで迫って来ているのがわかる。
このままではすぐに捕まってしまう!
こうなったらやっぱり秀一郎が追ってこれないところ、そう女子トイレに逃げ込むしかない!
私は一階まで降りたところで、最後の手段と女子トイレに逃げ込んだ。
「璃音!出てきてくれ!頼む、話をしようじゃないか!!」
そう言いながら入り口のドアを叩く秀一郎に、誰が出ていくもんですか、そうあっかんべーと舌を出し、私は窓からそっとトイレを抜け出した。
そして渡り廊下から中庭に差し掛かる。
そこには大きな桜の木があって、思わず足を止めるとその木を見上げる。
冬の木枯らしが吹いて冬眠中の枝を揺らし、ギシギシと乾いた音を響かせる。
秀一郎に見つからないうちに帰らなきゃいけないのに、なぜかそこに縛られるように身体が動かない。
そっとその乾いた幹に触れてみる。
そのままその木に両手を回して抱きしめるように頬をよせる。
秀一郎の顔、久しぶりに見たな・・・
久しぶりってたった2週間やそこらだけど、こんなに見ないのって初めてじゃないかな・・・
久しぶりと私にむけられた笑顔を思い出し、心臓が一段と早く鼓動を打つ。
「・・・好き・・・秀一郎が・・・大好き・・・」
本人には絶対言えない言葉・・・心の中からあふれだしたその想いを私はこっそり口にした。