第9章 【大石の大罪】
「すっごく可愛いんですぅ、美沙、気に入っちゃって~」
彼女が指さす先には、女の子が好きそうな指輪が載っていた。
「あぁ・・・市川さんによく似合うと思うよ?」
「本当ですかぁ~?」
そう言って彼女が嬉しそうに笑う。
「そうだ、今度プレゼントするよ?今日のお詫びもあるし、クリスマスにでも・・・」
「いいんですか~?・・・でも悪いですぅ・・・美沙、そういうつもりで言ったんじゃないのに、なんかすみません~」
でもやっぱり嬉しい~!そう言って喜ぶ彼女に、ははは、いいんだよ、と俺も笑う。
そしてもう一度雑誌をよく見て俺は身体が固まった。
・・・いち・・・じゅう・・・ひゃく・・・せん・・・
・・・ご、5万円!?
5千円の間違いじゃないのか?
そう思って何度も確認したけれど、やっぱりそれは5万円で・・・
中学生にこれは高価過ぎるのではないだろうか・・・?
こりゃ大変・・・
喜ぶ彼女に気付かれないようにこっそりため息をつくと、ポケットの中のおもちゃの指輪を思い出し、璃音とは大違いだな、そう思って今度は苦笑いをした。
彼女と別れ自宅に戻ると、そのまま璃音の家に向かう。
何度か携帯に電話をしたけれど、全然つながらないから直接向かうことにした。
「あら、秀一郎くん、久しぶりね~!」
「ご無沙汰してます、おばさん。」
「すっかりいい男になっちゃって!どう?受験勉強、はかどってる?」
「ぼちぼちです・・・ところで璃音、帰ってますか?」
長くなりそうなので、早々に話を切り上げ本題に入る。
「あの子ねぇ、帰って来てからずっと寝てるのよ・・・なんか具合悪いみたいで・・・」
「・・・そう、ですか・・・」
「あの子のことだから明日にはケロッとしてると思うけど・・・きっと拾い食いでもしたのね。」
そう言ってケラケラとおばさんが笑い、俺は苦笑いをする。
じゃぁ、これ・・・とポケットから指輪を出そうとしてその手を止める。
明日の朝、登校の時でいいか・・・なんとなくこれは直接渡したい・・・
いまだに気持ちがおさまらないなんて、やはり余程のことがあったのだろう。
明日にはいつもの笑顔に戻り、ちゃんと話してくれといいのだけれど・・・
やっぱりいいです、と俺はおばさんに会釈をし、璃音の家を後にした。