第9章 【大石の大罪】

「だったらどうするんです？大石先輩に言いますか？」
「・・・え・・・？」
「いいですよ？別に言っても」


秀一郎に・・・言う・・・？


例えば、私が秀一郎に言ったとして、彼はそれをすんなり信じるだろうか・・・いや、あいつの性格だから、信じないうえに私が怒られる・・・確実に。


それより、あんなに嬉しそうにしている秀一郎がこの事実を知ったら絶対傷つく・・・そんな秀一郎を見たくない。


だからって秀一郎が騙され続けるのは嫌・・・


「言えないですよね？下手したら自分が嫌われるだけだし？私、もう絶対ボロ出しませんよ？最初で最後のチャンスだったのに、証拠つかみ損ねましたね？」


ざーんねん、そう言って彼女はいっそう歪んだ顔で嘲笑った。
その瞬間、私は憎しみの感情が爆発し、気がついたら彼女にむかって拳を振り上げていた。


「何やってるんだ！！」


ハッとして声の方を振り返る。
聴きなれたその声は私に対する憤りを隠さずに、まっすぐ私を見るその目には怒りの感情が現れていた・・・


「・・・秀一郎・・・」


私は彼女から手を離し、振り上げた拳を下ろすと、後はただ俯くしか出来なかった・・・


最悪だ・・・最悪のタイミングだ・・・


「先輩、怖かった・・・！」
「市川さん・・・これはいったい・・・何があったんだい？」


あの女が秀一郎に泣きつき、秀一郎があいつの肩を抱えて、心配そうな顔で覗き込んでいて、まわりの女達が、私達、ただ話をしていたらあの先輩が突然！とか勝手な嘘を言っている・・・


これって、私１人悪者じゃない・・・


「どういうことなんだ、璃音！」


秀一郎が怖い顔で見ている・・・


「何があったか分からないけれど、いくらなんでも市川さんに手を挙げるなんて酷いじゃないか！」


何があったか分からないなら私だけ怒らないでよ・・・


「市川さんに謝るんだ！！」


なんで私が謝らなきゃいけないのよ・・・


「なによ・・・何も分かってないくせに・・・」
「え？」


そう、秀一郎はなにも分かってない。
彼女の本性も、ここで起きた出来事も､


私の募る想いも―――


「・・・秀一郎なんか・・・大嫌い！！」


私は胸元から指輪を取り出すと、力付くでチェーンを引きちぎり、秀一郎にむかって投げつけて、そこから走って逃げ出した。