第9章 【大石の大罪】
学校に着くと3年生のフロアで秀一郎に別れを告げて、自分のクラスに入る。
席に着くと、せっかくだからとサプリメントを口にそれぞれ放り込む。
相変わらずズレている気遣いだったけど、秀一郎が私のために用意してくれたと思うと嬉しくて、その日は一日温かい気持ちで学校生活を送れた。
さてと、このままの勢いで自宅でも受験勉強頑張りますか!と昇降口で靴を履きかえる。
「美沙~、これから大石先輩とデート?」
「まーねー」
聞き覚えのある声と秀一郎の名前に思わず反応し、足を止めてそっと靴箱の陰に身を潜める。
こっそり声のした方向を覗いてみると、案の定、美沙と呼ばれたその子は、昨日紹介された秀一郎の彼女の市川さんで、その友人と思われる数人と一緒に話をしている。
・・・って、なんで私が隠れなきゃいけないのよ?
関係ないんだからそのまま帰ればいいじゃない。
それか、こんにちは~って声掛けるとか・・・って、流石にそれは変か?
そんな考えが頭をグルグル回る。
とにかく盗み聞きっていうのはよくないよね。
秀一郎と彼女がまた一緒にいるところをわざわざ見たくもないし、さっさと帰ってしまおう、そう思って足を踏み出そうと思ったその瞬間
「っつーか、美沙も相変わらずよね~、伊達メガネまで用意しちゃってさ!」
・・・伊達メガネ・・・?
その言葉に踏み出そうと思った足がまたとまる。
そう、さっきからなんか違和感があったんだ・・・彼女、ちょっと昨日と雰囲気・・・違う・・・?
「ターゲットの理想を取り入れるのは基本でしょ?今回は特に眼鏡かけるだけだし?」
「さっすが狙った男は逃さない肉食系女子!」
「「あはははは」」
・・・ターゲット・・・?
・・・肉食系・・・?
「怖いよねぇ~、何が入学した時から好きでした、よ!」
「本当!クリスマス前に男捨てちゃったから、急きょ目ぇ付けただけなのにさぁ!」
・・・男捨てた・・・?
・・・急きょ目を付けた・・・?
「ちょっとぉ、私が誰でもいいような言い方しないでくれる?」
「なに、違うの~?」
「あったり前じゃない、あの人、医者志望よ?学年主席だし将来有望なの。ここでつばつけときゃ損はないってわけ!」
・・・医者志望・・・将来有望・・・
そんなことで秀一郎に近づいたの・・・?