第9章 【大石の大罪】
「おはよう、璃音!」
「・・・おはよう」
次の日の朝、自宅の門を出たところで秀一郎と一緒になる。
別に約束しているわけではないけれど、彼の朝練がなくなってからは、2人とも同じ時間に出るものだから、結果的に毎日一緒に登校することになる。
この状況を彼女がよく思わないのではないだろうか?
・・・なんて思うけど、この幸せな一時を自分から手放す気にはなれず、秀一郎がもうやめようと言い出すまでは気がつかないふりをし続ける。
「昨日は・・・なんかごめんね。」
「ごめんって、何がだい?」
「私、イライラしてたから・・・彼女、怒ってなかった?」
「あぁ、そのことか、全然大丈夫だよ。」
ところでその事なんだけど・・・と秀一郎が小声になると、バッグから何かを取り出し私にそっと手渡した。
「・・・サプリメント?鉄分とビタミンC?」
「その・・・生理中のイライラは鉄分不足から来ているらしくてね、ビタミンCと一緒にとると効果的らしいんだ。だからその・・・」
「~~~違うっ!!」
バッグで秀一郎の頭を一撃すると、秀一郎がイタタとそこを押さえる。
その時私は彼の指先に目を奪われた。
「秀一郎!血が出てる!」
「え?」
「指!!」
「あぁ、朝、うっかりグラスを落としてしまって・・・片づけるときにちょっとね、大丈夫、もう殆ど血は止まったよ。」
そう彼が言い終わらないうちに、私はバッグから救急セットを取り出すと、しゅっと指にスプレーし、絆創膏をくるっと巻きつける。
「はい!これで大丈夫!」
「・・・あぁ、ありがとう・・・」
そうお礼を言った秀一郎がポカンとした顔をしているから、なに?と聞くと、いや、懐かしいなと思って・・・と彼がそう答える。
「まだ持ち歩いていたんだな・・・」
「あぁ、癖よ、癖。」
そう言って秀一郎が笑うから、私は赤くなる頬を悟られないようにぶっきらぼうに答えると、わざと彼の視界から逃れるようにそっぽを向いた。
そう、私はいつも携帯用の救急セットを持ち歩いている。
小学生のころからずっと。
いつもあちこち怪我ばかりする秀一郎の手当てがすぐにできるように・・・
中学生になってその出番は殆どなくなってしまったけれど、ちゃんと持ち歩いていて良かったな。
今度はにやける顔を見られないように必死に隠した。