第9章 【大石の大罪】
自宅に戻ると制服のままベッドに倒れ込む。
思い浮かぶのは秀一郎の照れた顔。
そして彼女のやわらかい笑顔。
起き上がって部屋の鏡を覗き込む。
洗いざらしのままの髪。
リップなんて無縁のカサカサの唇。
指も爪もガサガサ。
彼女とはあまりにも違う自分がそこにいて、私は大きなため息をつくとまたベッドに倒れ込む。
「ほえぇ~!んじゃあ、2年近くも好きでいてくれたんじゃん!」
「あぁ、だから嬉しくてね、応えてあげたいって思うじゃないか!」
先ほどの秀一郎と英二の会話を思い出す。
2年、か・・・。
こっちはその何倍も秀一郎を想っているっての!
セーラーの胸元からあるものを手繰り寄せる。
それはチェーンに通されたプラスチックのおもちゃの指輪。
すっかり小さくなっちゃって、今はこうして身につけている。
その青い宝石をまねたその石を照明に透かしてみると、キラキラと光り輝いている。
小学生のころの秀一郎は腕白で、英二も真っ青になるほどのやんちゃ坊主だった。
私はいつもそんな秀一郎の後にくっついて、秀一郎!秀一郎!って追いかけていた。
そんなある日、遊ぶのに夢中になった私たちは、気が付いたら知らない場所にいて、いわゆる迷子になったっけ・・・
日も暮れかけて、心細くて不安で・・・泣き出した私を、秀一郎は大丈夫!と励まして手をつないで歩いてくれた・・・
そして泣き止まない私に、おもちゃ屋さんで彼が買ってくれたのがこの指輪。
私の指につけてくれたその時の秀一郎の笑顔が心強かった。
無事に家にたどり着いたときはもうすっかり夜になっていて、私と秀一郎は心配して大騒ぎしていた大人たちに沢山叱られて、でも抱きしめてくれたお母さんの腕の中が温かくて・・・
秀一郎なんて秀一郎のお父さんに殴られちゃって、ずっと私を励ましてくれていた秀一郎は、お母さんに抱きしめられた途端、私以上にワンワン泣いちゃって・・・
私はその日から、はっきりと秀一郎を異性として意識し始めた。
だけど長いこと幼なじみなんてやっちゃうと、この関係がこわれるのが怖くて、改めて告白なんてする勇気なんてなくて、結局突然現れた天使に横からかっさらわれるなんて・・・
ははは・・・ばっかみたい。
ぐるりとうつ伏せになって枕に顔をうずめると
涙がそっとそれを濡らした―――