第1章 月島蛍 ~僕と花~
さんの部屋は八畳ほどのワンルームだった。
あまり片付いてはいないけど、置いてあるものがなんとなくセンスがあるから、散らかっていても嫌な感じはしない。
彼女は鞄をベッドに置いて、コートを脱いでクローゼットにしまい、僕にもコートを脱ぐように促すと受け取ってハンガーにかけてくれた。
適当に座って、と言われて僕は荷物を下ろして腰を下ろした。
『月島君、ご飯食べたの?』
「そういえば食べてないです。おなかすきました。」
『え!?ちょっとまって!昨日の残りのカレーあるから、あっためるね!ちょっとまってて。」
彼女は僕がいると落ち着かないんだろうか。どこかあたふたしているように見える。
昨日のメールの内容からすると、何かこっちから問いかけたら、壊れてしまうような気がして僕はここへ来た目的をはたせないまま、彼女がぱたぱたと動き回る姿を見つめるに留まっていた。
”もう、どうしたらいいかわからないよ。”
昨晩、彼女からそうメールが来て、僕は返信するよりも先に仙台~東京間の電車の乗換案内をネットで調べて、新幹線の時間を調べていた。
さんは、音駒高校の元マネージャーで黒尾さんの所謂セックスフレンドだ。去年音駒を卒業した綾世さんは都内の大学に進学し、大学一年生となった今でも、ダラダラとその関係は続いていると、黒尾さんからもさんからもなんとなく話は聞いていた。
マネージャーの後釜を見つけられなかったさんは、責任を感じてなのか、黒尾さんに会う為なのかはわからないけど、土日の練習試合や合宿の度に手伝いに来ていて、僕もそこで知り合うことになった。
さんはどちらかと言えばそんなに華やかなタイプでもないし、セフレだなんて自らなるような人でもないと思う。おそらく優柔不断な性格と恋心を黒尾さんに良いようにされてしまって、断れきれずにずるずると今まできてしまっているのだろう。
それで、昨晩のメールだ。
こんな面倒事に何故わざわざ僕が出向くかといったら、厄介な事に僕はこの人を好きになってしまっていたからだ。
ついでに黒尾さんにも合宿ではお世話になっているし、本当に面倒でしかない。
本当に。
『、、、はい。カレーどうぞ!』
「あ、どうも。」