第1章 月島蛍 ~僕と花~
冬の夜は星がよく見える。
吐いた息は白くなって、冷えた外気に触れて闇に帰る。
アパートの踊り場から下を見下ろすと、細い路地を照らす街灯が黄色にぼんやりと浮かんで、たまにピカピカと接触不良で点滅していた。
スマートフォンで時間を見ると22:52で、かれこれ何時間ここにいるだろうと思考を巡らす。少なからずこの作業を一時間ほど前にもしたような気がする。
さんのアパートは、地方の人間が思い描く「東京」のイメージとは、かけ離れた人通りの少ない街にある。
「さむ、、、。もう11時だし。未成年が歩き回る時間じゃないんですけど、ほんと。」
大きくため息を吐くと、白くなってまた景色に溶け込む。
僕は彼女の部屋の玄関の前に腰を下ろして、体育座りしてドアにもたれた。
部活以外の理由で東京に来たのは初めてだった。まさか自分がこんなにも行動力のある人間だったとは。
仙台駅から東京まで新幹線で一時間半。
今まで自分の中でごちゃごちゃと考えては器用に積み重ねて頭の中では整理がついているつもりでいた。
だけど、あの人からのメールは僕をここへ足を向かわせるには十分な内容だったのだ。
コートのフードをかぶって膝をぎゅーっと抱えて目を閉じた時、ヒールが階段を上る音が聞こえて、さっきまでいた踊り場の方に目をやった。
『え!?月島君?、、な、何やってるの!!!??』
「どうも。」
『ちょ、ちょっとまって!、、何時からいたの?』
「たぶん8時くらいから、ですね。さん、帰るの遅いんですね。」
『友達とカフェで話してて、ほら、とりあえず部屋入って?』
「あ、はい。おじゃまします。」