第8章 (サンジ、ロー、ゾロ、バー、分岐)
りんが名乗るとサンジが他の二人を紹介した。
「おれの隣にいるのがトラ男。その隣の緑がマリモ」
(…紹介がまともじゃない)
「ふざけんな黒足屋」
「ふざけてなんかねーよ。お前らの名前なんてりんちゃんの耳に入れたら穢れるだろ」
それを聞いた酒を口にしていた緑の彼は喉の奥で笑う。
「何笑ってんだよゾロ」
「お前さっき声かけてきた女達が自分に興味なかったのムカついてんだろ」
「あぁん?!」
「目もくれてなかったもんなぁ。トラ男ばっかりで」
「だから、おれはローだと……もういい」
これでやっと三人の名前がわかった。
出していた花小エビのフライがなくなっていたので聞いてみる。
「追加しますか?」
「え?あぁ…他のオススメある?りんちゃんの手料理だったら何でもいいんだけどね」
「そうしたら…」
燻製チーズやオリーブなどを一皿用意する。料理の一つ一つにあれこれとサンジが聞くので、よほど研究熱心なコックなのだと感心した。
対してゾロとローは二人で剣の話をしていた。二人とも剣を携えているのをみていて気になっていたのだが、聞けずにいる。
(海賊で剣士?あまり詳しくないけれど…)
二組目の来店を知らせるベルが鳴ったので振り向き迎える。今度は島の常連客だった。
いつも注文する酒と軽食を用意してテーブルに持っていく。
カウンター中に戻ってグラスを拭く作業を再開した。
二個目のグラスで、ふと視線を感じたが気付かない振りをする。
三個目が終わる頃にはその視線に熱量を感じた。
四個目、視線は舐める様にりんの身体を行き来する。
五個目…
「あ…」
髪を結っていたヒモがプツリと切れ、ぶわりと髪が広がった。毛量が多いせいか稀に起こる。しかし今日に限って代わりのヒモがない。
ふと見回して、金属製のマドラーが目につく。致し方ない、今日はこれでしのぐ事にしよう。その代わりこのマドラーは二度と店にだせないけれど。
マドラーをかんざしの様に使ってもう一度髪を結い上げる。並べたグラスを鏡代わりにして崩れがないか確認して、手を洗う。
「…その結い方、さっきのより色っぽいね。」
声がした方を振り向くと、サンジがニッコリとした顔で頬杖をついていた。
「…お見苦しい所お見せしてしまいました」
「いや?むしろ見れて良かったよ。髪を流した方が魅力的」
