第4章 (ロー、シャチ、とりあい?)
りんを船にのせて幾月か。最近では船員達へ笑顔を向けれるようになってきた。
しかしローの前では何故か恥ずかしそうな反応をする。好かれてはいるがそれが近いような遠いような距離感で、もどかしさを感じている。
ある日のことだった。
「せんちょー!せんちょー!」
「……っるせぇ。」
どんどんと部屋のドアを叩かれ、重い体をベッドから起こした。
「なんだシャチ、朝っぱらから」
「りんがー」
ドア越しのシャチの泣きそうな声にローは跳ね起きてドアを開けた。
「何っ…居るじゃねぇか」
「うぅっ…そうじゃなくて…」
後半は既に泣き出しながら、シャチは抱えていたりんをおろす。
りんは不安そうにシャチを見上げた。
「さぁ。」
背中を押されて、りんは一歩ローに近づく。ローの顔をみて、りんは口を動かした。
「ぅ、おー。」
小さな、小さな、初めて聞く音。
「っおー。」
シャチの嗚咽も聞こえる。
「る、おー。」
「ろー」
「……もう一度、聞かせろ」
ローは、りんを抱き上げる。
「頼む、もう一度聞かせてくれ」
「ろー」
「もう一度だ」
「ロー!」
シャチがローごとりんを抱き締めた。
「うあぁぁ!やっぱりりんがしゃべったぁぁぁ!」
「しぁちー」
「おれの名前までぇぇ!」
シャチが嬉し泣きをしている。
「……うるせぇぞシャチ」
「しぁち」
「なんすかー!船長だって嬉しいでしょう!?初めて呼んだ名前が船長だったんだから!」
シャチはツナギの袖口で涙を拭く。
「…初めてりんの声を聞いたのがお前だったことにムカつきを感じている」
「ええぇ…」
シャチが肩を落とすとりんがシャチの頭を撫でた。
「うわー。おれに優しいのはりんだけだー」
りんがローに向き直る。
「ロー」
「…なんだ?」
ローは優しく微笑んだ。えへへとりんが笑い、ローの首もとに頭を埋める。
「…やっぱり船長が一番かー」
シャチが発したその言葉にローは説明を求めた。
「さっきまで絵本を読んでたんスよ。
んで、『このお姫さんがりんならこっちの王子は誰なんだろうな?』って…そしたら初めて声が聞けたって訳です」
「…そうか。ともあれ今日は宴だな」