第1章 1
弥は気持ち良さそうに目を細めてニコニコと笑う。
なんとも心癒される光景だ。
ふと雅臣の方をみると、口元を引き締め
複雑な表情でその様子を眺めていた。
胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えた。
「ありがとう、お姉ちゃん!お姉ちゃん、僕の部屋で遊ぼう!」
弥はソファからおり、絵麻ちゃんの手を引く。
「あ、あぁ、そうだったね」
「わーくんはお姉ちゃんが大好きなんだねぇ」
「うん!大好き!大きくなったら、僕、お姉ちゃんと結婚する!」
可愛らしい鼻をぷく、と膨らませ、目を輝かせながら弥は宣言する。
絵麻ちゃんは苦笑いを続けるばかりだ。
「言うねぇわーくん」
私は弥の髪をくしゃ、と撫でてやる。
「これからお姉ちゃんとお部屋でデートなの!邪魔しちゃイヤだからね!」
「…だそうなので、ちょっと弥くんと遊んできますね。すみません」
「はいはい。いってらっしゃい」
私は二人にむかってそういい、ヒラヒラと手を振る。
絵麻ちゃんは弥が手を引くままにロビーを出て行った。
「…雅臣、なにむくれてんの?」
「…む、むくれてなんか」
一瞬困ったような顔をしたが、目の奥の不機嫌そうな光は隠せない。
「なーるほどねー」
口元と目元は笑うように歪めたが、心までゆがませることはできなかった。