第1章 1
「わぁ!ジュンちゃん!久しぶりー!」
弥がなんのためらいもなく私に飛びついてきた。
「わーくん、久しぶり。元気だった?」
「うん!元気!」
プール帰りでまだしっとりとしている髪を優しくすく。
「今日はわーくんが大好きなトマトをいっぱい持ってきたから、絵麻お姉ちゃんが美味しいトマトの料理を作ってくれるかもよ?」
「ほんとに!?」
大きな瞳がキラキラと輝き、わーい!トマト、トマト!と部屋中を駆け回る。
「弥くん、今日はトマトを使ったご飯にしてあげるから、お風呂はいっておいで。そしたらお姉ちゃんと遊ぼう?ね?」
絵麻ちゃんが弥を上手に誘導する。
「わかった!お風呂はいる!」
弥はバタバタとお風呂に向かって走って行った。
「絵麻ちゃんはずいぶんわーくんの扱いが上手だね」
そう褒めると、彼女ははにかみながら笑った。
「雅臣さんに習ったんです」
雅臣はそれを聞いて嬉しそうに微笑んでいる。
「ほんと、こいつは昔っから子どもの扱いが上手で子どもに大人気だったからなぁ」
「あの、よかったら大学の時のおはなし、聞かせてもらえませんか?」
「ち、ちょっと、そんなこと聞かなくたって」
「おー。いいよいいよ。どこから話そうかなー」
「ジュン!もう…はぁ」
雅臣は諦めたのか、抵抗するのをやめた。
大学のこと、お酒の席での失敗談、研修先での病院の話。
なんだかんだで私と雅臣はペアで何かしていることが多かったことを思い出す。
キラキラと思い出が輝いて、次から次へと懐かしいエピソードが溢れる。
そして、その当時の胸の痛みすらも思い出すのだ。