第1章 1
広くて開放感のある5階のロビーに通される。
「お茶いれてきます!」
絵麻ちゃんはそういいながらパタパタと台所に走っていった。
「うん、お願い」
雅臣は優しい笑顔で彼女を見送る。
「どうぞ、かけて」
「ありがと」
野菜の詰まった箱をソファのそばにおき、ゆるりとソファに腰をかける。
「今年はトマトが豊作でね」
「へぇ。それは嬉しいな。弥も喜ぶよ」
「そういえばわーくんはトマトが好きだったね。彼は元気?今日はいないの?」
「おかげさまで元気すぎるくらいさ。
今日は学校のプールがあいてるんだーって朝から元気に学校へ行ったよ」
目を輝かせながらウサギのキャラクターがプリントされたプールバッグを
斜めにかけた弥の姿が容易に想像できる。
「そっか。元気なのはいいことだね」
「お待たせしました。こんなのしか用意できないのですが…」
シンプルなグラスに注がれたアイスティー、
お茶受けにはクッキー。
アイスティーには爽やかなミントが添えられている。
「悪いね。ありがとう」
「いい妹ちゃんだね。十分すぎるくらいだよ」
「いえ、そんな…」
絵麻ちゃんは頬を赤らめながらソファに腰掛け、アイスティーを一口のむ。
「こんな感じに気の利く子だからうちでは右京といっしょに台所とかを手伝ってもらってるんだ」
「へぇ。そうなの。じゃあ早めに食べてもらいたい野菜とかあるから箱を開けようかな」
ソファの横においた箱をみやすい位置に動かし、箱を開ける。
「わぁ、お野菜がこんなにたくさん…いいんですか?」
「10人以上が住んでるここだし、このくらいあってもすぐなくなるんじゃない?」
苦笑いをしながらそういうと、絵麻ちゃんは確かに…とつぶやいた。