第2章 2
「ありがとうね」
「ほんと、釣れないわね。鈍感なの?」
「光とはそういう関係は望んでないってことだよ」
「なによ。うまく利用されてるだけなの?」
申し訳ない気持ちがズドンと重くなる。
「言ってしまえばそういうことよ?アタシは利用されてる」
「うん…わかってる。わかってるよ…」
「ジュンも雅兄と変わんないわよね。
ほんと自分勝手」
言葉もでない、まさにその通りなのだから。
「…ま、こうやって弱みに漬け込もうとするアタシ…弱みに漬け込もうとする俺も自分勝手だ」
双方の幸せって難しいもんだな、
と男の声で光が言った。
「こうやって頼ってくれるのは嬉しい。悪い気はしない。でもジュンが求めてるのは男の俺じゃなくて…女のアタシ。噛み合わないのね」
光もワイングラスの水を飲み干す。
「ずっと昔から、俺もジュンと同じように恋い焦がれていた。ジュンと決定的に違うのは、相手がどこを見てるかはっきりしてる。
…それが自分の兄でさ。何度も何度も相談されて、よく耐え切ったと思うよ。ホントに。
そして今日、愛する人は夢やぶれて俺の元にきてくれた。嬉しかった。
でも、その人が求めたのは男の俺じゃなかったんだ」
光は立ち上がり、私に背を向けて窓の外を見た。
「どんなに目の前で泣かれても、女のアタシじゃ手を出せない。それが女でしょう?抱きしめるくらいはしてもよかったけど…そんなことしたら、アタシはアタシでいられなくなるもの」
アンタが望んでいたのは女のアタシだから、ね
そうつぶやきながら、光はつよく拳を握った。
「ジュン、そろそろ帰りなさい。アタシの…俺の気が変わらないうちに」
それか、俺のこの気持ちを断ち切ってくれよ、
光は顔を伏せてそうつぶやいた。