第2章 2
高層マンションのエントランスで彼女の部屋の番号を押すと、すぐに自動ドアがあけられた。
いつもどおり鍵のかかっていない部屋のドアを開けると、
とりあえず書類は壁に寄せて人の座れるスペースは作った、というような部屋が目に飛び込んできた。
「いらっしゃい。散らかっててごめんね」
「忙しかったの?」
「まぁね。でもジュンのあんな声聞いたらさすがにそんなこと言えないでしょ?」
「ばれてた?」
そういいながらイチジクの入ったビニール袋を光に渡す。
「バレバレよ。座って待ってて」
おいしそうなイチジクね、とお褒めの言葉をいただき、彼女はキッチンに立ってイチジクを切り分けはじめた。
革張りのソファに腰をかけ、ぼーっと夜景を眺める。
シックな机の上に上品な白い皿に切り分けられたイチジクが並ぶ。
皿には銀色の細身のフォークが2つのせられている。
「あっごめん」
「いいのよ。今日のジュンは傷心中のお客様。座ってなさい」
再び光はキッチンにもどり、軽く冷やした赤ワインとうすいワイングラスを持って現れた。
「ちょっと渋めの赤ワインよ」
「だからあんまり冷やしてないの?」
「そ。冷やすとエグ味が増すでしょう?」
ワイングラスに少しだけ注がれる。
ボトルにコルクを詰め直し、乾杯を交わした。
ほんの少しだけワインを口に含む。
心地よい渋みと、ブドウの芳醇な香りが口いっぱいに広がる。
「…おいしい。こんなおいしいのはじめて飲んだ」
「お気に召したなら幸いね。イチジクもおいしいわ」
しばらくゆったりとした時の流れに身を任せる。