第1章 1
いっそ、絵麻ちゃんのことが好きだと、そういって欲しかった。
そうしたら、この何年か越しの片思いもいい加減諦め切れるのに。
雅臣のどっちつかずという、優しさとも無責任さともいえるそれが無性に苛立つ。
やり方はいくらでもある。
このヘタレな小児科医を無理やり襲って責任を取らせるのもいい。
そのどっちつかずの優しさにつけいってしまえばいい。
それがしあわせなのか。
そんな乱暴になれるほど雅臣のことをどうでもいいとは思えない。
深く愛しすぎてしまったのだ。
「…お願いだから、はっきりとした言葉を聞かせてよ…」
思わず漏れた声は、かすれていたが、
静かな部屋では十分すぎる大きさだった。
「…僕も、こんな気持ちになるのは初めてなんだ」
その言葉を聞いた時、私の心が流し続けた血は、静かに引いていくようだった。
ずっと私は雅臣のことが好きだった。
どこか頼りないところもあるけど、人のためなら一生懸命になる。
そういうところがたまらなく愛おしかった。
私は私なりに彼にアプローチしていたつもりだけれど、それは雅臣を動かすほどのものではなかったのだと、たったその一言で知ったのだ。
数年越しに語られる真実は重たい。
とつとつと語られる、雅臣の気持ちには抗うことはできない。
雅臣にはもう、甲斐甲斐しく可愛らしい、甘え下手な妹しか見えていないのだ。
彼女を語る一つ一つにやさしい暖かさがこもっている。
私が欲しくて欲しくてたまらなかったそれが。
雅臣が話し終えた時、私の心はすっかりと次に向かう準備ができたのだ。
たとえ見栄やハリボテだったとしても。