第1章 1
「…ありがと。話し聞けてよかった」
雅臣の表情は曇ったままだ。
「なんであんたがそんな顔しなきゃならないんだよ。
私もあんたも、気持ちの整理がついた、確認ができた。そうでしょ?大きな前進なのに」
「…でも」
「それに、そろそろ帰りたいんだから、いつものなーんにも考えずに優しさだけあげますーっていうあののんびりした顔しててよ。いまの私にはそれが一番の薬さ」
そういうと、雅臣はすこし困った顔をしながら優しい笑顔をむけてくれた。
「今年はちょっと前に植えてた果物たちが実をつける年でさ、あまったら持ってくるね」
カラになった段ボール箱をかかえ、ソファを立つ。
すると、絵麻ちゃんがロビーに戻ってきた。
「あれ、もう帰ってしまうんですか?」
「うん。そろそろ涼しくなるから水やりと畑の草むしりでも、ね。秋には果物もってくるから、楽しみにしてて」
この子ならきっと、雅臣のダメなところを優しく支えてくれるだろう。
私は私の気持ちを彼女に託すようなつもりで彼女の頭を撫でた。
どうか、どうかこの二人がしあわせになりますように。