第11章 【それでもここにいる その4】
赤葦に言われて志野が答えるのが聞こえた。静かな返事、だが木下は志野の目つきが初めて見るものになっている事に気づく。何というかこうなったらやってやらあと言いたそうなそんな感じだ。正直意外だと思ったがこれ以上は限界だったので木下はそそくさと縁下達の待つ他の体育館へ移動した。
後で日向や月島から聞いた話ではこうだった。
「木下さんっ、」
「どうした、日向。」
「木下さんと仲いい梟谷のペット」
「ああ志野な。」
「何か言ってる事難しいけど面白い奴ですねっ。」
「は。」
木下は首を傾げる。生憎自分は日向の言う事を変換できるほどの頭を持ち合わせていない。
「難しいってのは日向の語彙が足りないからデショ。」
呆れたように月島が口を挟む。
「人並みの語彙があれば大体わかるよ、いちいち返しが面倒だったのは確かだけど。」
あからさまに渋い顔をする月島に木下はぶっと吹く。
「あいつ発想がなぁ。ノリいいけど。」
「そうっ、いー奴でしたっ。」
「そっか。」
木下はつい微笑む。
「僕はゴメンですね。」
渋い顔のままの月島に木下はだろうなと思った。静かな時は静かだが口を開いて勢いがつくとやかましい志野の落差は月島からすると面倒と感じるのは何となくわかる。
「んで、志野の奴どうだった。木兎さんに声かけられて赤葦に言われてようやっとだったろ。本気で練習付き合ってたのか。」
「ええ、本気だったでしょうよ。」
やはり渋い顔で月島は言った。
「どした。」
尋ねる木下にしかし月島は眼鏡を押し上げそこから先をなかなか話そうとしない。日向もじーっと見る中やっと月島は口を開いた。
「凄く、しつこくて。」
眉根がよる月島、それ思ったと日向も言う。
「下手くそだったけど。」
「日向は寧ろ感謝すべきでしょ。」
月島は打って変わって意地悪く笑い日向は何だとっと喚く。
「大分拾ってもらったの誰だった。」
「でも決めたの俺だしっ。」
「あいつが拾わなかったらどーするつもりだったんだか。」
「うぐっ。」
「マジかよ。」
目を見開く木下に月島は意外にも追加の情報をくれた。