第11章 【それでもここにいる その4】
「やっぱおもしれー。」
木下はつい呟いた。
そんな志野健吾であるがこの日の夜に木下は意外な所を見た。
「志野ーっ。」
また木兎である。
「こっちの練習付き合えーっ。」
志野は多分聞こえなかったふりをしたのだろう、ノソノソと歩いてそのまま去ろうとしている。勿論そのまま引き下がる木兎ではない。
「くぉら無視すんなーっ、れ、ん、しゅ、うーっ。」
梟谷のエースはビョインッとすっ飛んで自らが拾ったというペットの首根っこを掴んだ。
「いやだから昨日も申し上げましたが俺じゃあ練習になりませんて、赤葦さんがいるし音駒の人とか烏野のえーと、日向君とか月島君とかがいるでしょう。」
「それはそれだっ。」
「何言ってんだこの人。」
木下は志野に物凄く同情した。悪気のない押しをやられるのは結構辛いものがある。
「離してください、木兎さん。」
「やだねっ。」
「無駄にキリッて顔されてるのがどーにも。」
「何だよ、拾ってやった恩を忘れたのかー。」
子供のようにブーブー言う木兎に志野は言った。
「忘れてませんよ。」
その顔は柔らかく笑っている。
「忘れてないからこそ邪魔をしたくないんです。」
木下は思う、あいつ顔は笑ってるけどきっと泣きそうになってると。口を挟むわけにもいかずさりとてそのまま去る事も出来なくて木下はその場から動かずにいた。
「今度は何です。」
とうとう赤葦がやってきた。しかし何となく状況を察したように見える。
「あかーし丁度いいとこにっ。」
「また志野を無理矢理誘いましたね。」
先回りされた木兎はむごっと唸る。
「いーじゃねーかよ、たまにはよー。」
「たまにはとは。ペットの様子に気をつけるのは本来飼い主の仕事でしょう。」
ため息をつく赤葦はここでとはいえ、と付け加える。
「志野、悪いけど今日は付き合って。」
「え。」
呟く志野は不安そうな顔つきでこれまた木下の同情を誘う。
「いっぺんやったら気が済むだろうから。」
「はい。」