第11章 【それでもここにいる その4】
「ボロボロでみっともなかったですがね。まったく、ペットの癖に生意気でしたよ。」
「そっか。」
木下は呟いて話はそれで終わるかと思ったが、
「いやそれよりも」
月島が更に付け加えた。一体どうしたと木下は思う。
「際限がないからってチームメイトも早々に逃げ出す木兎さんのスパイク練習、今回は無理矢理突っ込まれたのに根を上げなかったのがあいつなりの本気かもしれませんね。」
木下は目を丸くし月島はそんな木下をちらりと見てしかしそれ以上何も言わなかった。
そんな次の朝の事だ。
「あ、木下さん。」
顔を洗いに行こうとしてすれ違ったその時、今までと比べると少しはっきりした声で志野が声をかけてきた。
「お早うございます。」
「おはよう。」
木下は言いつつも吹き出しそうになった。
「ど、どーしたんだよ。」
聞くとムスッとする志野の片頬にはマジックペンらしき黒い線が入っている。
「珍しく昨夜はぐっすり寝れたと思って起きたらこのざまです。」
「誰かがいたずらしたのか。」
「木兎さんがふざけて落書きするふりをしようとしたら勢い余ったそーです。赤葦さんが目を離した隙だったようで、まったく。」
「うわあ。」
木下は他に言うことが見つからない。
「でもお前練習どうすんだ、そんな顔で行けないだろ。多分それ水でも取れねえ。」
「俺もそう思いますんで女子マネの人に化粧落とし借りれないかと思って今から行くとこです。」
「1人で、女子んとこに。」
「本当はクソ恥ずいんですけど言ってらんないので。」
言いながらも志野の視線は下がり気味である。木下はこの辺にしとこうと話を変えた。
「そういや昨日日向と月島が世話になったらしいな。」
「寧ろ俺が世話になりました。しかし月島君に何べんも舌打ちされたのは何故なのか。」
凄くしつこいと志野を評した時の月島を思い出して木下は苦笑する。
「粘り強かったとか何とか。」
「察するにホントはしつこいとかうざいとか言ってましたね、さては。」
このペット意外と鋭い。木下はぎくりとしてごまかし笑いをする。