第10章 【それでもここにいる その3】
「いや、その、そんなことねーと思う。」
怪訝な顔で自分を見る赤葦の視線が恐ろしい。色々見透かされているような感覚、それでも木下は何とか言葉を紡ぐ。
「ただ、想像だけどあいつまだ悩んでるんかも、俺って本当に必要なのかなって。後から入ったんだろ、だから余計にさ」
赤葦の顔が僅かに驚いたようになる。
「そうか、なるほど。」
赤葦は小さく呟いた。
「君はそういうのがわかる人なんだな。」
「いやだからそーぞーだって、俺だって昨日喋ったきりだしよ。」
慌てる木下にしかし赤葦は微笑んでいる。ふと木下は思った事があって付け加えた。
「あのさ、」
呟く木下に赤葦は無言で続きを促す。
「本当に距離置いてるんなら最初から何も話さねえっつーか、あんな風に感情出したりしねえと思う。」
「そうか。」
言う赤葦は顔こそ変わらないものの安心したような声だった。
「ありがとう。」
赤葦は呟いて木下以外の烏野の連中が首を傾げる中、失礼しましたと去っていった。
「何がどうなってんだ、木下。」
縁下が耳打ちしてきた。
「いや何かあっちの1年とちっと喋ってたら何かこんな事に。」
「なるほど、懐かれたのか。」
「おいっ。」
「他校の一年を手懐けるとは木下、やりおる。」
「やめろよ田中、そんなんじゃねぇってっ。」
「良かったじゃねーか久志、友達増えてっ。」
「えーあー、うん。」
「赤葦君の話聞いてる限り他所んちのペットに気に入られた感があるけど。」
「成田までよせよっ。」
ニシシと笑う成田に木下はまったくよと呟いた。
また夜が来た。木下はチームの連中と一緒に自主練をしようとしていたのだが昼間いた体育館に忘れ物をした気がして戻っていた。すると到着したその体育館からでかい声が聞こえる。
「志野ーっ、こっちの練習付き合えーっ。」
「嫌です。」
「何でよっ。」
しかもいいのか悪いのか日向の声も聞こえる。
「ええ何でっ、同じチームなのにっ。嫌いなのかっ。」