第10章 【それでもここにいる その3】
休憩時間の事である。ちょっとごめんよという声がしてまさかの赤葦がやってきた。烏野勢はおやおやとなりしかも赤葦は木下の所へ来たのでますます烏野勢は何事だと身構えた。田中と西谷が何だ偵察か木下に何をする気だと威嚇体勢に入りそうな所を縁下に抑えられている。
しかし当の赤葦はまったく動じずどうもと挨拶をしてから木下に話しかけた。
「昨日はごめんよ、うちの志野が世話になったな。」
「いや面白かったから別に。」
「悪い奴じゃないけどね。」
「でもなーんか変わってんな。」
「そうだな。あと、よく練習についてきてるとは思う。」
「そういや編入して途中入部だって。」
「ああ、木兎さんが拾ってきた。」
「捨て犬か捨て猫かよ。」
木下が突っ込むと赤葦は似たようなもんだよと答える。
「休み時間に1人でバレーボール触ってたとこ木兎さんが見つけて連れてきたから。」
「自分はペット枠じゃないって言ってたけど。」
「あいつまだ違うつもりだったのか。」
「ペット枠なんだ。」
「木兎さんが完全にそんなノリだった。無理矢理連れてくるな返して来いって言ったらしょぼくれた。」
「ブフォッ。」
「もっとも、志野本人もやる気でそのまま入ったんだけど。」
「へー。」
「木兎さんには拾ったんなら自分も世話しろっつってんだけどね、なかなか。」
「ますますペットじゃん。」
「朝一はああだけど起きてる時は反応が面白いからわりとみんな弄ってるんだよ。」
「そーいや木兎さんが赤葦は志野に甘いって。」
ふと思い出す木下に赤葦は余計な事をと呟く。
「別に甘やかしてるつもりはないよ、木兎さんよか手間かかんないのは確かだけど。」
「基準それなのか。」
「気にしないで。」
赤葦はそこはさらりと流してから目を伏せた。
「ちょっと悔しいな。」
「何が。」
「同じチームなのにまだ俺らは志野に距離を置かれてんのかって思うとね。」
「何でだよ。」
「君には懐いてるみたいだから。」
焦る。木下は大いに焦る。自分は本来こういう場面にいるタイプのキャラじゃないと思う。こういうのはきっと大地さんとかスガさんとか縁下が適任だ。でも何か、何か言わないと。