第10章 【それでもここにいる その3】
その後志野がどうなったのかもちろん木下は知らない。ただ次の朝、やはり志野は寝ぼけまくっていてしかし懲りない木兎にバシバシやられても大人しくしていた。
「志野どーしたっ、腹いてーのかっ。」
いやそっちじゃねーだろ。木下は木兎のとんでも発言に突っ込みたい気分だがそういう訳にもいかない。我慢して事の成り行きを勝手に見守る。
「誰かっ、志野が何かおかしーっ。」
「いやおかしくねーだろ。」
木葉に突っ込まれて木兎はえーと不満げである。
「だって何も言わねーしベシッもしねーんだぞ。」
「ベシッてされて騒いでたのはどこの馬鹿だよ。」
「俺は馬鹿じゃありませんー。」
「自覚なしなの忘れてたわ、このやろ。つか昨日赤葦に怒られたから頑張ってんだろくんでやれよ。」
「そーなの。」
「はいはい、そろそろその赤葦呼んでくるね。」
ヒクヒクしだした木葉に気づいたのか猿杙が口を挟む。更に何を思ったのか鷲尾辰生までもが静かにやってきてお前はこっちだと志野を引きずり始めた。これまた酷い図だ。
「鷲尾さん、」
かすれまくった声で目をこすりながら志野が言った。
「俺もっぺん顔洗ってきます。」
鷲尾が黙ってパッと手を離すと志野はだだだっと駆け出す。ひょっとしたらまた成田あたりに顔バシャバシャやってるところを見られるかもしれない。うっかり想像して笑いそうになった所を我慢して木下はその場から離れようとした。
「また君か。」
ギクーッとした。赤葦だ。一体いつの間に来たのか。
「どうも志野のいるトコ君あり、な気がするな。」
「き、きのせーきのせー。じゃあっ。」
木下は逃げるように去った。
その後もうっすらと赤葦が木兎に説教をしているのが聞こえる。志野で遊んでばっかじゃなくてちゃんと世話をしてください拾ってきたのは貴方でしょうと言っているようだ。拾ってきたってなんだよと木下は激しく気になった。