第9章 【それでもここにいる その2】
だが縁とは妙なものである。その夜の事だ。就寝時刻の少し前、木下が手洗いに行って戻る途中の事だ。
「あ。」
「あ。」
一瞬少年達は沈黙する。
「どうも、またお会いしましたね。」
先に口を開いたのは志野である。
「お、おう。その、お前どしたんだ。」
「どうも寝つきが悪くてこそっと抜けてきました。寝起きも悪い癖に面倒なもんです。あと赤葦さんにバレたら怒られる。」
「もうバレてんじゃねーの。」
「勘弁してください。」
顔を赤くする志野に木下はクスクス笑う。
「そういや全然名乗ってなかったな。俺、木下久志。烏野の2年。ウィングスパイカー。」
「改めまして梟谷1年志野健吾、ウィングスパイカー的な奴っす。よろしくおねがいします。」
「的なって、お前。」
「実力的に足らずが多くて強いて言えばなので。実際公式戦ならベンチ入りすらしませんし。」
「その割にゃあ木兎さんや赤葦がかまってたな。」
「気まぐれですよ、木兎さんは近い内に飽きます。そうなれば赤葦さんだって俺を気にする必要なんてなくなる。」
呟く志野の目は一体どこを見ているのか。
「おいよせよ」
木下は顔は笑いながらも内心冷や汗をかく。
「んなこと言ってたら俺だってまともに公式戦出たことねーっての。」
「でも木下さんの場合は」
一方の志野は妙によく通る真っ直ぐな声で言った。
「チーム内で忘れられる事はないでしょう。あくまでそっちをチラ見した感想ですが。」
「お前」
さっきからさらりと重いことを言われている気がして木下は何かあったのかと聞こうとするも当の志野がおっといけねと自ら呟く。
「ついくだんねーことを。気にしないでください。」
いや気になるだろうがよと思った木下はついこう口にしていた。