第9章 【それでもここにいる その2】
そんなこんなで烏野は梟谷と試合である。木下はこの時コートに入っておらず、後輩の変人コンビや同期のハイテンション組あるいは先輩達が奮闘しているのを応援しつつ見ていた。少し妙なことがあったのは丁度烏野側で日向が打ったボールを梟谷側が受け損ねてコート外へすっ飛んでいった時だった。
「わあっ。」
志野健吾の声が上がり、バシィッという音が響く。受け止めたらしい。それを見たマネージャー白福のが口を開いているが発言内容がおかしい。
「良かったぁ、ちゃんと志野君受け止めたねー。」
「白福さんシーッ、他校に聞こえるっすっ。」
「だってえ、志野君来たばっかの時よくビビって反射的にボール殴ってたじゃぁん。」
「言わんでもいいからっ。」
「うるさいと赤葦に怒られるよお。」
「ひでえっ。」
何だか今まで見た事のない状態で他校—音駒や森然、生川—がチラチラ見ているし烏野側の控え組もつい見つめている。
「何だろあれ。」
縁下が呟き、副主将の菅原も何だかと呟いた。
「木兎以外で濃いのがいるみたいだな。」
「あんな人いましたっけ。」
後輩の山口までもが言い、2人はうーんと唸る。
「で、」
とうとう縁下がじろりと見た。
「木下はまた何笑ってんの。」
「別に、あいつ何かおもしれー1年だなって。」
「なるほど、そこまでは知ってたんだな。」
「あ。」
墓穴を掘った。
「良かったら詳しく、あるいは3行で。」
にっこり笑う縁下が若干怖い気がする。ほんのちょっとだけ考えて木下は言った。
「朝寝ぼけてた。
弄られたから木兎さんはたいてた。
赤葦に怒られてた。」
縁下のため息が聞こえる。
「ホントに3行でまとめるとは思わなかった。」
「話早いだろ。」
「つか主将はたくか。」
「木兎さんだからじゃない。」
「成田やめろよ納得しそうになる。」
「すみません、俺納得しちゃいました。」
「山口お前もか。」
「こらやめろよ、お前ら。」
嗜める菅原も笑いそうになっている。
「あ、やべ。」
ふと気づいて木下は呟いた。
「聞こえちまったかも。」
気づけば志野健吾が何か仰いましたかと言いたげな様子でこちらを見ていた。