第8章 【それでもここにいる】
言う赤葦にもう一人のマネージャーである白福雪絵があれーと指差す。状況を察したらしき赤葦がまたですかと呟く声は事態を外から見ているだけの木下ですらあ、ちょっと怒ってるとわかる調子だ。そんな赤葦はつかつかと木兎達の方へ歩み寄り、志野にぶたれたと何故かべそをかいている木兎の首根っこを掴んだ。
「木兎さん朝の志野には触るなって言ってるでしょう、志野お前も朝弱いのはともかく何でそこ限定でそんなに我慢がきかないんだ感情のコントロールをしろっていつも言ってるだろ。」
あの沈着冷静口数の少ない赤葦京治が比較的長文かつ早口で説教をしている。レアな光景だ。やがて志野と呼ばれた少年がかすれまくった声で言った。
「申し訳ありません。わ」
赤葦はまるで予想していたかのようにそこへかぶせた。
「忘れてましたとは言わせない。お前は木兎さんと違って忘れない。」
俺と違ってってどーゆーことよっと木兎が騒ぐがお前は今黙ってろっと木葉にどつかれる。
「買いかぶりすぎです赤葦さん。俺ガチで忘れる事多いです。」
一方の志野少年はやはりろくに出ていない声で微妙に反論し、しかし赤葦は容赦がなかった。
「お前は何かと覚えている期間が長いだろ、あと本気で忘れている時とそうじゃない時は顔でわかる。いつまで寝ぼけ面でごまかしてるつもり、ほら」
ここで急に赤葦の口調が彼にしては和らいでいてそれが聞こえていた木下は大変驚いた。
「もっぺん顔洗っといで。」
志野はやはりかすれたままの声ではいと返事をしてパタパタと駆け出す。おそらく外の手洗い場へ向かうのだろう。途中すれ違ったのでペコリと会釈され、木下も慌てて返す。何か変わってんなーと思った。一方ではまた木兎が騒いでいる。
「あかーしずりいっ。」
「何がです。」
「いっつも志野には優しいっ。」
「また訳のわからないことを。とにかく貴方はいい加減寝起きの志野に触らないでください。そもそもあいつが悪いのは事実ですが下手に触ってややこしくするのも問題です。」
「だっていっつも眠そうでテンション低いからよー。」
「ほっといたらそのうちエンジンかかります、いつもそうでしょう。」
「そーだっけ。」