第8章 【それでもここにいる】
その時関東で行われていた男子バレーボール部の合宿、そこへはるばる宮城県から来た烏野高校男子排球部の一員である2年の木下久志はものすげーものを目撃した。
「よぉ志野ー、相変わらずお前朝テンションひっくいなー。」
梟谷学園高校の木兎光太郎が1人の少年の背中をバシバシ叩いている。早朝の練習開始前、志野と呼ばれた少年は全身から俺は眠いんですという雰囲気丸出しで今のところは大人しくバシバシやられている衝撃に身を任せている様子だ。しかし気がついた木葉秋紀があっ馬鹿と声を上げた。
「おい木兎やめろ寝起きの志野に触るんじゃねーっ。」
大変慌てた様子の木葉の声、しかし木兎は聞いちゃいない。
「お前もなかなかやるんだからよ、もっとこう朝もグアッと、グアッとだな」
チームから末っ子呼ばわりされるわしょっちゅう後輩で副主将の赤葦京治にたしなめられるわな奴だが一応励まそうとしているらしい。木下はへーあの人もちゃんと主将らしい事しようとするんだと思いながらついつい状況を凝視してしまう。だが残念ながら今回に限ると木兎は相手の様子にもう少し気をつけるべきだったらしい。
ベシッという音がして木下が何事かと思うのもつかの間、木兎がぎゃあああああと騒ぎ出した。
「志野にぶたれたああああああっ。」
念のため何が起きたのか説明しておくと志野と呼ばれた少年が木兎の左肩のあたりを平手突込みのような要領ではたいたのだ。大して痛そうには見えなかったのだがどうも木兎としては志野にぶたれたというのが問題らしく、やらかした志野本人はあからさまに機嫌の悪い顔つきで木兎を見つめている。
「だあああもう言わんこっちゃねーっ。」
頭を抱える木葉、こら志野っと声を上げるマネージャーの雀田かおり、あこりゃまずいわと猿杙大和がキョロキョロしだした所で事態を収拾出来ると思われる人物が動いた。副主将の赤葦京治である。
「騒がしいですね、何事ですか。」