第8章 【それでもここにいる】
とぼけているのではなく本気で言っているらしき木兎に赤葦がボソリとたまにどつきたくなるなと呟いたのを木下は聞いてしまった。梟谷の他の連中に聞こえたのかどうかはわからなかったけど。
「そうです、本人も努力してます、あれは身内が必要以上に気にかけると逆に思い詰めて危険なタイプです。とにかく朝は触らない、その話もしない、わかりましたか。」
「へーい。」
大人しく返事をする木兎、まったくとため息をつく赤葦、やれやれやっとおさまったといった様子になる梟谷の他の面々、油断していた木下はそのままぼんやりとしていた。
「どうかした。」
「いやっ、そのっ」
ふいに赤葦に声をかけられて木下はそれこそ心臓が飛び出るかと思った。
「別に、何も、ごめんよ。」
何かありまくりなのは丸出しだがとりあえず木下はここから離脱してそろそろ集まりだした烏野の連中の所へ向かおうとする。
「ごめん、見苦しいとこ見せたな。」
更に後ろから赤葦に言われて木下は重ねてビビった。何、俺一体今どういう状況になってんだとすら思う。
「うちの1年の中じゃ変わってる部類だけど他校に迷惑かけるような奴じゃないから。」
「お、おう。」
「そろそろ目ぇ覚めてきてるだろうし心配しないで。」
「ああ。」
混乱状態のまま木下は返事をしてほとんと逃げるように烏野の連中の所へ飛んでいった。
飛んでいったら早速2年仲間の縁下力に心配された。
「木下、どうかしたのか。」
「何か赤葦君と話してたみたいだけど。」
更に同じく2年仲間の成田一仁も口を挟む。
「や、べっつにー。」
木下は適当に答える。梟谷内で起きていたあの妙な事態を勝手に喋っていいのか正直わからなかった。赤葦は特に口止めしてこなかったけど何となく話すのは気が引ける。
「まぁ無理には聞かないけどな。」
縁下は相変わらず鋭い。そこへ成田がそういやと言った。
「さっき梟谷のっぽい人が手洗い場でめっちゃ顔洗ってたの見た。まだ練習始まってないのに何だったんだろ。」
「へぇ、木兎さんといい梟谷には変わってる人が多いのかな。赤葦君も大変だ。」
多分さっきの志野とか呼ばれてた1年だ、木下は吹きそうになった。
「やっぱり木下何か知ってるんじゃないのか。」
縁下に不審そうに言われて木下はいや別に知らないと懸命に流したのだった。
その2に続く
