第7章 【越えられないとは限らない】
その後は何のかんのと2人で雑談に興じ、そろそろ帰らないとという頃合いで2人は別れることにする。
「お引き留めしてすみませんでした、でもありがとうございます。」
「いや俺こそ。何かちっと軽くなった気がする。」
「では失礼します、木下さん。」
言いながら志野は木下が拾ってやったバレーボールを抱えてニッと笑った。
「次お会いする時はどんだけ打たれても拾います。」
つい釣られて木下も笑う。
「させねーよ。」
夜の空にアハハと少年2人の笑い声が響いた。
そうして大分後の事である。
「行こうか。」
縁下が呟いて烏野高校男子排球部は試合会場である体育館の通路を進む。ふと青葉城西の一行とすれ違った。一瞬身構える烏野の面々だがふと向こうの会話が聞こえた。
「何今更緊張してんだよ、金田一。」
「国見俺は別に。」
「顔固いじゃん。」
「う。」
「誰かこいつ何とかして。」
国見と呼ばれた選手が言うと少し後ろの方からやや小柄な部員が歩みよる。何だ何だと烏野勢が凝視する中、そいつはベッシーンと金田一と呼ばれた選手の肩をはたいた。
「おい志野っ、何すんだっ。」
「うっせーっ、何固まってやがんだこのやろとっとと復元しやがれいいか試合開始までにまだ固まってたら福神漬けと一緒にカレーの付け合わせにすっからなっ。」
「何だと志野っ、俺は固まってなんかねえっ。」
「おし、解凍完了。これでいいか国見。」
「志野にしては上出来。」
「前の一文節分が余計だ。」
烏野勢は多くが大笑いしたいのを堪えていた。
「何か物凄いのがいるな。」
仲間の成田がピクピクしながら呟く。
「誰だあいつ、金田一にあんだけ言うなんて。」
後輩の影山が首を傾げる。
「志野健吾。」
木下は呟き、烏野勢は一斉に振り向いた。
「リベロの渡さんの後釜にされかかってた奴。でもあの様子じゃほぼ後釜決定っぽいな。」
烏野勢はへえと呟く。
「でもよく知ってたな。」
成田に言われて木下はああちょっと、と返した。
「若干喧嘩売られた事あって。」
それを聞いた縁下がええっと慌てふためき木下も慌てて大丈夫だって揉めてねーからと説明した。